、まるでこの場にあつらえ向きに勢揃いのコマ五郎及び輩下の五六十名という夥しい人数が、手をつかねて燃えるにまかせ、死する喜兵衛をむなしく見送ったのはナゼかということであった。参会者の疑念は、そこに集中した。焼け落ちてしまってから、ようやく焼跡をほじくって、中央のまさに在るべきところから喜兵衛の焼屍体を探しだして茫然たるコマ五郎一党に向って、人々の怒りの視線はきびしくそそがれた。
 所轄の警察のほかに、急報をうけて駈けつけたのは深川警察の精鋭。かねて舟久の話によって、先代コマ五郎が喜兵衛の恋人と子供をひきとって然るべく振り方をつけてやったことまでは判明しているから、これは怪しいとまずピンときたのは当然だった。
 取調べの急所は云うまでもなくなぜ喜兵衛を助けださなかったか、という点である。コマ五郎は悪びれもせず、
「失礼ながら、先代以来特別の目をかけていただいたコマ五郎、旦那の気質は一から十までのみこんでるつもりです。こんな風変りの趣向をなさるからには、御自分の胸にたたんだ何かがなくちゃアいけませんや。コチトラが口をだすはおろか、指図もないのに手をだすことはできません。若旦那や坊ちゃん方が一
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