ときのタドタドしい足どりとは打って変った素早さ。
「危い!」
 コマ五郎が後を追う。数名の坊主につづいて十名ちかい火消人足の一団が、
「危い! 危い!」
 連呼して、もつれつつ駈け上り、扉の前で押しひしめく。一かたまりの人むれに押されて、扉がドッと中へ倒れた。同時にドッとあおりたつ煙につつまれた。全てはまったく一瞬とも云うべき短い時間の出来事だった。
 煙に追われて一同は、ナダレを打って逃げ降りた。コマ五郎は老師をシッカと抱きかかえていた。それが「動」の終りであった。火に包まれた仁王様を「不動」とはうまく称《よ》んだもの。ダビ所はエンエンたる火焔につつまれ、はげしい不動の時間の後に燃え落ちたのである。もはや誰もどうすることもできない。ただ、見まもっているばかりである。棺桶の上には扉が倒れかかっていたが、やがて火焔につつまれて、全ては姿を没してしまったのである。
 喜兵衛は生きながら焼け死んだが、呻き声もきこえず、姿も見せなかった。そして、不動の悲劇のテンマツを二人の怪探偵もカタズをのんで見終ったのである。

          ★

 ここに、まず問題になったのは、火消装束に身をかため
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