、恋人は誰に嫁したか、それも実は判明しない。
警察の捜査は行きづまって、この事件はウヤムヤになってしまった。花廼屋は自分の調べだしたことを新十郎に語って彼の判断をもとめたこともあるが、確信がなければ答えない新十郎のことだから、彼からたった一ツのヒントすらもうることができなかった。
この事件から半年もたたないのに、喜兵衛が生きながら葬式をだすという。そういう暗く血なまぐさい事件があって葬式の趣向も思いついたのであるが、何か悪い事が起らなければよいが……花廼屋にピンときたのもムリのないところであった。同憂の士は虎之介だ。彼はこの葬式の話をきくと、花廼屋にたのみこんで、是が非でもその式場へ連れて行ってくれ、という。そこで推理の迷路を歩き疲れたような怪探偵の二人づれが今しも市川在の田舎道を歩いているということになったのである。
「殺されるのは、あるいは六人……」
虎之介は、また指を折った。彼の頭脳の複雑なソロバンは凡人の手にあまるものだ。ところで、御両氏の狙いたがわず、奇怪な犯罪が彼らの眼の前で行われるに至ったのだが、その謎をとくに彼らの脳中のソロバンが間に合うや否や。
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