てすすんで秘密をうちあけたときの目つきを見ると、この老いぼれも曲者だぞ、と気のつく者もあった。八十すぎの老いぼれだってモーロクジジイとは限らない。他のことには枯れて邪念のない心境になっていても、一生深く根を結んでいるこれ一ツという妄執だけは益々深まって、その妄執の鬼のようなジジイができあがることはあるし、モーロクして世間への気兼ねを失うにつれて悪企みだけは益々誰に気兼ねもなくマムシの巣のようにもつれた妄執でこりかたまったジジイも居るものだ。
舟久の言いたてている表向きの理窟にはおよそ信用できないぞと気づいた人は少くなかった。ひょッとすると、コマ五郎一家に根の深い恨みがあって、喜兵衛の隠れた長男がコマ五郎の手で処置されたという秘密を知らせる目的は、山キの孫を殺した犯人が世間の知らないところに居る。コマ五郎一家というちょッと手のつけにくいところに秘密がある。そこを探せ、という謎をかけているようにも思われた。
ともかく、喜兵衛には結婚前にできた長男があったという意外な事実が判ったことは収穫であったが、実はそれによって謎が深まるばかりで、一向に謎をとくことができない。その隠し子が誰であるか
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