屋根にも通路がないのに、あなたはその中から出られますか」
「ハイ。出られます」
「これはおもしろい。私の庭にあれと同じ物をつくって、あなたを棺桶に入れて担ぎこんで火をかけても、あなたはヌケ出ることができると仰有るのでしょうか」
「ハイ。ぬけでることができます。そして、人の居るべき筈のない建物が焼けたのに、そこに誰かが死んでいることもできます」
「実におもしろいぞ」
と木場の旦那はスッカリ喜んでしまった。
「するとあなたは犯人も御存知ですな」
「存じております」
「それは何よりです。あんまりフザケたようで、故人の霊を傷けては困るが、そのために犯人をあげていただくことができれば、故人も成仏してくれるでしょう。さっそく同じ物をつくらせますから、カラクリのタネをあかして犯人をあげて下さい」
「心得ましたが、その前に約束があります。この実演はここに居る四人だけの秘密にして、御家族にも口外をひかえていただきたいのですが」
「よろしい。堅くお約束いたします」
そこでコマ五郎の輩下に命じて、ただちに同じ建物と棺桶をつくらせた。コマ五郎一家のものは、これによって親分を助けることができるというヤマ甚の堅い約束によって、よろこんで仕事に応じ、また秘密をまもった。
★
設備終って、実験の当日がきた。
集ったのは約束通り四人のほかには、あの当日と同じ人数のコマ五郎の輩下だけだった。新十郎は一同に向って、
「まず私が棺桶の中にねますから、あの日と同じようにそれをダビ所に担ぎこみ、木やりを歌いシャンシャンと手をしめて、あの日と同じように立ち去り、最後にコマ五郎親分が錠を下して下へ降りたところまでやって下さい。コマ五郎親分の代役は土佐八さんにやっていただきます。あの日とちがって、本日は縁の下には薪木がありませんから、火をかけるには及びません。ダビ所を降りてきた皆さんは、まっすぐ、この位置へ戻ってきて、代表者の土佐八さんから、全くあの日と同じことが行われて無事完了したことをヤマ甚さんに報告していただきたい。つまり、コマ五郎親分が錠をかけ終ったところまでは、あの日と同じダンドリのように行われたということを報告なさればよろしい。ただし当日と違った点があったら、その通り仰有って下さい」
こう言い渡して、新十郎は棺の中にねた。花廼屋と虎之介が清作らの代りに三本の釘をうった。
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