に関してたぶんどなたよりも無邪気な罪を犯していらッしゃる犯人は大伴シノブ夫人でしょう。あの方が今もってロッテナム美人術を推賞している事実に越すイタズラはあるまいと思いついたからです。貴婦人の総ての方々が悪評を加えていらッしゃるのに、たッた一人推賞して倦むことを知らない情熱は、それが無邪気なウソにきまっていると語っているようなものです。第一、大伴シノブ夫人は天下名代の絶世の美人で、あの方の本来の玉の肌はすでに美人術の推賞を裏切るものです。まして甚しく情熱的にほめすぎることは益々明瞭なウソを自白いたしておるものでしょう」
「御説の通りですわ。あの方がロッテナム夫人を後援したのは、日本中の貴婦人方の玉の肌を荒すのが目的だったかも知れません。生れつきのイタズラ好きなんです。留守番の老人はロッテナム夫人の居住中も特に自分の一室に住むことを許されていたのですが、ときどき大伴夫人の姿を見かけたそうですが――あの方は毎日欠かさず来ていたのです。しかし、手術室で術を受けたことはなく、ロッテナム夫人には貸すことを許さなかった私の二階の寝室でねころんでいたようです。その部屋のカギは私が彼女に貸したのです。で
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