ました。私はロッテナム美人館のあとを見物に来た物好きなヤジウマですが、つい屋敷をまちがえまして」
 とあやまると、婦人はほほえんで、
「いいえ。ここがロッテナム美人術館のあとにまちがいございません。あなたのような物好きなお客様はひろい東京にもはじめてですが、二週間前と今とでは、同じ物は間どりだけと御承知の上ならば、どうぞ御自由に御見物下さいませ」
 新十郎は喜んだ。そして部屋部屋を一巡したが、ロッテナム美人術という特別な術を施し、そこここに貴婦人がやすみ、またその裸体を横たえたであろうような妖しい現実を今も匂わせているような何物も見出すことはできなかった。
「この広間が手術室だそうですが、ロッテナム夫人が施した特別の部屋の飾りは、窓や寝台に幕をたれ、諸方に鏡を立てた程度の装飾で、ただ寝台のまわりを黒人の男女が香をささげてねり歩くのが何よりの異様なものであったらしいですね。日常の部屋の調度は私がこの部屋へ残して行った今と同じ物を使っていらしたのでしょう」
 新十郎はおどろいて、
「すると、奥様は元々この洋館の居住者でしたか」
「ええ。この洋館をたててまもなく、主人が胸の病いに犯され新しい
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