ろう人々は、日本きっての名流中の名流婦人に限られていて、新十郎が対面することもできない人たちばかりであった。新十郎もこれにはホトホト困却した。
彼はやむなく二週間ほど以前まで、ロッテナム美人館と称していたかなり広大な木造の洋館へ行ってみた。その洋館は芝生で四方をかこまれ、その芝生は鉄のテスリをめぐらしただけで、まるで公園のように道行く人に見晴らしのきく開放的なものであった。およそ秘密くさいところがなかった。
「なるほど、このように明るく開放的なところが、貴婦人の好みにかなったのかも知れない。ロッテナム美人館の玄関先の馬車が彼女のものであることが、道行く人々にそれと理解せられることも、貴婦人たちの好みにかなったかも知れないなア」
と、名探偵は手のとどかない貴婦人たちの心理について、仕方なしに考えてみたりした。彼は芝生をよぎり、玄関に立って案内を乞うた。実は無人の邸宅だと思っていたのだ。
ところが意外にも、案内を乞うと、たちまち扉をあけて顔を現した者がある。それはまだ二十四五に見える、上品な、これも貴婦人の一類かと察せられるような婦人であった。新十郎は面くらって、
「どうも失礼いたし
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