とはないらしいが、君が探しあぐねてサジを投じた悲愴なテンマツを偽らずきかせてくれると、おのずから犯人の姿がアリアリと出ているように見えるよ。その犯人の姿が見えないのは、御自分の頭の中の少しずつ寸の足らない推理を総動員して、その渦の中でもみまくられている御当人だけらしいな。実に本日の君は私にとってこの上もない恩人だった。この店の勘定だけでウメアワセがつくとは、ありがたい」
 新十郎がハシャイで、こんな皮肉なことを云うのは、実は皮肉ではなくて、本当に嬉しかった重大なことがあったのだろう。
 新十郎は宇井に別れた足で、さっそく通太郎夫妻を訪問し、
「私はあなた方の御依頼の原因が、バクゼンたる想像から出発しているにすぎないように考え、あんまり乗り気ではなかったのですが、どうして、どうして。もう、あなた方がお前やめてくれと仰有っても、この謎を解かなければ私の気持がおさまりません。それを報告にきました」

          ★

 ロッテナム美容院はどのようなものであったか、それを新十郎に語りうる克子は、たった一度シノブにつれられて行ったことがあるにすぎない。もっと深く内部の事情に通じているであ
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