ビヤなどとは使節を交していないから、彼女の責任を負うている外国公館も存在しないぜ」
「店を開く手続きは?」
「君に勘定をもたせるわけは、それだよ。わずかに一ヶ月足らずで貴婦人たちから揃ってヒジ鉄砲を食ったというのは、あんまり馬脚を現すのが早すぎるようだが、その反対に、開店と同時にすでに名流夫人の人気にことごとく投じていた。さすれば開店のアッセンをした者が日本の名流婦人の心を左右する力をそなえた誰かであることが分ろう。その誰かは、三人いる。それは公爵と大臣で、それ以下の身分の人ではないことだけ言っておこう。むろん、すでにお察しの如くにこの三貴人を動かした者が実際に君が知りたい人名であろうが、それはたぶん誰にも知られていないだろう。むろん僕にも分らない。しかし、外国関係のことが職業の我々仲間には、いまもって大きな謎が一ツ残っている。三貴人を動かして開店と同時に名流婦人が法外の値を物ともせずに飛びつくような効果的な後援を貴人直々してくれるには相当の運動資金が必要であろう。貴人の名を後援者につらねることは容易だが、真に効果的な実役を果すことに努めるのはこの人々の習慣的な後援法にはないことだ。そ
前へ
次へ
全88ページ中67ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング