の様子ではすでに夜逃げ同然行方をくらましたということですが、外国人の来朝や帰国についてはその記録に当る機関があるだろうと思います。それらの調査を終った上で、数日後に結果を御報告いたしましょう」
 と約束して立ち別れた。
 新十郎は外務省を訪ねた。洋行帰りの彼であるから彼《か》の地でジッコンを重ねた役人もあって、新十郎の知りたい事を調べてもらうには便利であったが、ロッテナム夫人、ならびにその従者の来朝帰国については、それについては当然何かの消息が知りうる筈のところに、ただの一行も記録したものがなく、それについて報告をうけたことも、上司から調査を命じられたこともないという。変名の場合を考えて、似たような婦人を古い記録をはじめコクメイに探してもらったが、まったくそれらしい婦人に就て知ることができなかった。
 そこへ彼の親しい友である宇井という外交官が外国の公館員と長い用談を終えて、ようやく姿を現したが、
「ナニ? ロッテナム夫人? そんなものを筋の通ったことしか知らないお役所で調べたって分るものか。海外に遊学して外国の事情にも通じた天下の名探偵ともあろうものが、イカサマ師の外国人の足跡を外務
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