のようだ。調査に当った警官が出て来ての直接の答えでは、
「左様ですなア。その辺には血痕も、特別の足跡もありませんし、上流と下流にわたって岸を調査した報告はそろって『現場の跡を発見せず』でありました。一昨夜から昨日までの潮は、満潮が午後十時ごろと午前十時ごろ、干潮が午前四時ごろと夜は五時ごろでした。一昨夜来の水量と潮では、満潮になると杭にかかった死体が外れて流れますが、それは満潮の前後各一時間半ぐらいではないかという、その方面の係の者からの報告がありました。すると、射殺されて落ちた場所で杭にかかったとすれば、一昨夜の満潮が十時ですから、約十一時半以後、発見が朝の八時で、その時はまだ次の満潮が死人を杭から外す時刻になっていません。つまり一昨夜の夜十一時半ごろから、翌朝八時までのうちに射殺されたことになります」
「被害者のポケットや、身につけたもので、特別の物はありませんか」
「何一ツ特別なものはありません」
変死体の発見された三囲様のあたりは淋しいところで、誰も銃声をきいたと申立てる者がないそうだ。
警察を辞去すると、新十郎は二人に向って、
「調査は迅速を要します。ロッテナム夫人はお話
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