。あなたはその瞬間に三という数の謎の原則の方を飛躍して、兄上の幻想上の事実の方をわが物として直覚していたのだね」
 通太郎はこう説明したのちに、その顔を益々明るくかがやかせて、
「あなたはこの謎の基本となっている三の数の直覚を飛躍したが、それはあなたが基本的な三の数の問題を、すでに兄上同様に、疑るべからざる当然なものとして問題外にしている理由があってのせいと思われる。こう云えばとて、あなたが兄上同様に三の幻覚を起す因子があるというわけではない。あなたの心の中に、自分ではそれに気がつかないが、兄上が三の数に悩むのは当然だという解決を発見しているせいだ」
 こう云われて驚く克子の顔を、通太郎は嬉しくてたまらぬような笑みをこめて見つめた。そして、断言した。
「あなたはそれに気がつかないが、実はすでに解決のカギを発見して握っているのだよ。あなたはこの分身の直覚に限って思いだすことができなかったが、それはあなたにとってあんまり平凡で当然な事でありすぎる意味があってに相違ない。そして、この直覚が平凡で当然の故に却ってボケた自覚しかなかったと同じように、確信の強さによって却ってゆがめられている他の似
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