て扱いに困《こう》じ果てているようであったが、満堂のザワメキがおさまると、改めて威儀を張り、
「宗久どの。あれを見られい」
また、指さした。
一同はギョッとした。すでに明白な証拠が現れて万人を承服せしめるに足る結論が出たというのに、この上さらに何事が有りうるのだろうか。宗久と血のつながる叔父のことだから、この人の頭もどうかしているのかと人々は思ったほどだ。
同じ驚きは克子にもあった。彼女も思わずハッとして、叔父の四度指さす方を見たが、そこに彼女が見たものは、別に奇があるとも思われぬもの、単に蛇足にすぎないようなものであった。
今まで一人ずつ現れていた三名が、今や並んでそこに姿を現しているだけのことである。すでに分りきったことではないか。こんなことを今さらつけたしてどうするつもりか。まさかオペラのフィナーレの手をエンマの庁でも終幕の挨拶に用いているわけでもあるまい。
他の一同も、今さらなんのこッた、という面持であった。けれども晴高はバカバカしいほど大マジメなもので、
「宗久どの。あれを何と見られる?」
意外に激しい語気である。
宗久はすでに人々のザワメキが起ったとき、人々の
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