った。
 宗久は、第三の方を形式的にチラと見たにすぎなかった。そして第二の質問に答えるまでの長い時間を要することもなく、また特に衝撃をうけたような挙動もなく、至って投げやりに答えた。
「あの者も、妻の侍女のひとり、カヨ子と申す者です。しかし、かの者も実は妻と同一人です。妻シノブ、侍女キミ子及びカヨ子、三名の者は、まったくただ一人の人間です」
 その奇妙な答弁を待ちかまえていたらしい人々は、ここに至って緊張を破り、思いのままにザワメキを起した。そのザワメキは人々がすでに全く同一の結論を得て論争の余地もなくなったことによる余裕や安らぎを表していた。今に至るまでの緊張は、結論に至るまでの道程を表したものだ。もはや緊張は無用である。満堂の人々は、他の総ての人が自分と同じ結論を得て同じ心に相違ないと信ずるに足る明々白々な証拠を見出したからであった。
 さすがに叔父の晴高は元気がなかった。その訊問にはカマもなければオトシアナもないけれども、とにかく自分の問いに対する答えによって血をわけた甥が狂人と断定されては、浮いた気持にはなれなかろう。
 晴高は人々のザワメキが静かになるまで浮かない面持で身の持
前へ 次へ
全88ページ中43ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング