、甥の顔をきびしく見つめていたが、実は落胆しきったように目をふせてしまった。しかし、思い直したのだろう。また、同じ方を指して、
「あれは、そなたの何者でござろう?」
と、三度、訊ねたのである。
その瞬間に克子は叔父の指さす物を見るまでもなく、総てを知った。そして、そうか、その実験かと思った。もはや、驚く心をも失ったのだ。しかし、何も知らぬ一座の人々は、三度同一の所を眺め、そこに第三の女を見出して、やや、ざわめきが起った。
二人の女の姿が消えて、第三の女の姿が現れていたという奇蹟のせいではない。なぜなら、そのことは奇蹟ではなかったから。今までの女の姿が消えて、新しい女の姿が現れるのはフシギではなかった。タネも仕掛もない。その壁際にはカーテンが垂れている。そこから出たり入ったりしているだけのことで、ひそかに人目をくらますためのような奇術的なタクラミはなかった。
人々のはげしい期待や関心は、さらに第三の女について宗久がいかに答えるであろうか、ということであったろう。
ところが、人々の興味の高まることとは逆に、宗久は克子と同じように、第三の質問を受けた瞬間に、すべてを予知したようであ
前へ
次へ
全88ページ中42ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング