すがに開店している。西洋の酒や食べ物を商う店らしい。赤いワシ鼻のたれた西洋人の男が店の掃除をしている。
 一助が来意をつげると、西洋人はジロジロと上下に彼を眺めていたが、チヂレた髪の毛を見ると納得したらしく、彼を店の裏へつれて行った。裏口をはいって廊下をまがり扉をひらくと、階段が現れた。そこを登ると、屋根から光がもれるほかには窓のない暗い小部屋があった。
 ワシ鼻の西洋人は一助をそこへ待たせて扉の向う側へ姿を消した。やがて現れたのは、一助がまだ見たことのないフシギな外国人であった。ところが、このフシギな外国人は日本語をいくらか知っていた。無言でここまで案内した男とちがって、いきなり聞き覚えのある言葉で話しかけられたので、一助は面くらって、すくんだほどであった。男は一助をイスにかけさせて、
「アナタ、ステキデス」
 満足そうにうなずいてこう云うと、ポケットから日本の札タバをつかみだして、一枚の十円札をテーブルの上へのせ一助の方へ押しだした。
 それから一ヶ月半すぎた。
 お加久は一助が居なくなって五日目に、一助から手紙をもらった。達筆な代筆で一ヶ月後に帰るとあり、十円同封してあった。とこ
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