くみ、シサイあって来駕光臨の栄をたまわった以上は、克子が血肉をわけた唯一の妹で、来駕光臨のシサイに対して申立つべき異議を胸に蔵していても、申立てる機会がないのは当然だった。彼女の異議を予期している貴族も博士も従者もいない。この威風堂々たる大訪問を恭々しく迎える当然きわまる附属品の一ツであるという外には克子の姿に意味も存在も認めた者がなかったのである。
威風みつるが如き大鑑定の現場に於ては、被鑑定人のたった一人の血をわけた妹が人々の蔭に小さく身を隠すようにして見ていることすら、貴族の慣例に反するようなウロンな眼で見られなければならなかった。
克子のマゴコロの看病によってのみ心の安らぎを得てようやく快方に向いつつあった宗久は、誰かの鬼の手で叩き起されて――それが誰の手であっても、克子以外の手はみんな一様に鬼の手にしか思えなかったが――エンマの庁へひきだされてきた。
「宗久どの。この者はそなたの何者に当るお方でござろうかの」
こう問いを発したのは晴高叔父であった。ズラリと威儀高らかに控えているエンマたちの前にでて、たッた一人ウロウロしているのは晴高だけであったが、こうタクサンのエンマが
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