レの目をごまかすことはできない。お前はハリガネで松の木に縛りつけられたろう。そして泣いて叫んだろう。オレはそれをきいて行ってやろうと思ったが、足が痛くて、行くことができなかった」
兄はやっぱり狂っているのか。恐怖を必死に抑える苦しさ。ただ祈るばかりである。すると宗久の語気はケロリと変って、大きな目をあけて克子を探しながら、
「宇佐美通太郎はどこにいる?」
「いま、隣室に来ております。お兄さまの身を案じて、どのようにでもお役に立ちたいと堅い覚悟をいだいております」
「そうか。つれてこい」
実にケロリと変って、アッサリした言葉であった。
★
通太郎を連れて戻ると、宗久は自分が命じたことを忘れたように眠りかけていた。二人が到着の挨拶をのべても、二三分は目をあけなかった。ようやく、薄目をあけたが、特に通太郎の方も見ようとはせずに、
「君はオレをどんな人間と思っているか」
「おちかづきが浅いから直接の判断ではありませんが、克子の言葉を通じて、大そう学問好きな、社交ぎらいの方と承知しておりました」
「キミは学問は好きか」
「学ぶことも好きですが、それを自身活用してみた
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