空しく探していたのである。
克子は椅子にかけて兄の手をとり、
「お兄さま。どうして刀などが御入用なのでしょうか。そのワケを克子に教えて下さいませ」
「ここにはお前のほかに誰もいないね」
「おりません」
宗久は目をとじた。総てがメンドウくさいのか、自分で何か確かめる様子も表わさない。さればとて、さッきの疑念が納得できた様子もない。彼は甚しくものうそうに目をとじたまま、
「オレはお前だけ信じているよ。こうして目を閉じていると、お前が見えなくなる。けれども、そこにいるのは克子だと思うことができる。何も見えなく、信じることができるほど静かなことはないなア」
「それはどのような意味なの? そのワケを教えて下さい。お兄さま。何か御心配がおありではございませんか。克子がお役に立ちますなら、どのようなことも云いつけていただきとうございます」
「まア、まて。いそいでも、なかなか分るものではない。オレにもオレのことすらも分らない時がある。信じられない時がある。三位一体という言葉があるが、あの本当のワケはどうやら分りかけたのかも知れぬ。人間は三人ずつ一組の人間らしい。一人の人間が三ツの顔と体をもっている
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