落ちて、手は骨だけのように小さく細くなっているではないか。
 克子は兄の寝顔を見つめて、悪夢を見つつある思い。どれぐらい坐っていたか、それも判じがたいような悲しさであった。せいぜい三十分ぐらいのものであったらしい。兄は目をさました。兄の目が克子を見つめてまだいぶかっているうちに、
「克子です。御気分はいかがですか」
 顔をよせてニッコリ笑いかけると、宗久はジッとみつめて、うなずいて、
「克子か。そうか、会いたかった。ここは、どこだ?」
「ここはお兄様のお部屋です」
 宗久は何か寝床の中を手さぐりしていたが、首をふって、
「ウソだろう」
「ほら、あたりをごらんなさいませ。いつもと同じお部屋よ。天井も、寝台も、壁も」
 宗久の目はやや光った。
「バカな。同じ物はいくつもあるのだ。同じ部屋をつくるぐらいはワケがないことだ。オレが抱いてねたはずの刀がどこにもないではないか」
 克子はハッとした。静かに立ち上り、フトンの中をたしかめ、寝台の下や四囲を改めたが、見当らなかった。すでに叔父たちが取りあげて隠したのだろう。それはすぐに思い当ったが、それをどのように説明すべきか、克子は時間をかせぐために
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