の存在を知り、その攻撃法を知り、それに対して特に訓練した者でなければ、いかな剣の巧者でも十三のサチコにしてやられるのが当然なのである。
カラテの広西五段は日本カラテ界の最高峰の一人だが(名人の次には五段が最高位である)杖術にはとても敵対できません、と語っているのである。
ふりかぶって振りおろす剣には広さが必要だが、四尺二寸の杖は、四尺二寸の手の幅が上下にありさえすれば自由自在にあやつり得るもので、これもまた意外の一ツ。三畳の広さがあれば縦横に使える。婦人の護身用としてこれほど有利なものはなさそうである。
かかる巧妙な術が流行しなかったのはフシギだが、カラテも杖もあまりにも実用的で、必殺の術であるのが、悟道化した武道界に容れられなかったのかも知れない。
島田が主として伝えたものはこれであり、そのために特定の人格を選んだのである。
「島田の道場に普請があってツンボの大工を探しているが、貴公ひとつツンボの大工に化けてもらいたい」
五忘がベク助に話というのは、それであった。五忘は言葉をつづけて、
「実は、オレの妹のお紺というのが島田道場で女中にやとわれているが、このお紺は生れながらの
前へ
次へ
全32ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング