るものが、当時の武芸者には欠けていた。彼らが主として学んでいたのは杖術ならびに拳法、むしろシナ流のカラテであった。その他、馬術、水泳から短銃、航海術等に至るまで学びつつあったのである。島田は短銃の名手でもあった。
 カラテほど実用的な闘争術は少なかろう。突きも蹴りも必殺の急所のみ狙うから試合ができない。型だけだから実用的でないように見えるが、実はアベコベで、型が実用に役立つまで、敵襲に応じて万全の受けや攻撃を一手ごとに分離会得するまでには驚くべき練習量を要求する。この練習量はとうてい他の武術の比ではなく、したがって、この練習量に堪えるには平静温厚にして志の逞しい人格を要するものである。
 カラテは徒手空拳、剣に対抗しうるが、これだけはとてもかなわん、というのが一ツある。それが杖術だ。今日も静岡に夢想権之助の神伝夢想流がつたわっており、私は先日、警視庁の杖術師範鈴木先生に型を見せていただいて、あまりにも有利きわまる術の妙に呆れ果てたのである。
 棒の両端が交互に襲いかかるが、一端を見つめているとき、思いもよらぬ方角から他の攻撃が起り、ただ目がくらみ、為すところを失うのみであった。
 杖術
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