に休む間もないほどである。
彼らは稽古について多く語ることを避けるから道場内の生活はよく分らないが、師を尊敬することの甚しさは門弟一同に共通したものであった。
そこで世間は取沙汰して、由比正雪の現代版現る、なぞと説をなすものが次第に多くなった。
由比正雪は天下を狙ったが、島田幾之進は何事を策し、何事を狙うか。馬賊、海賊の手下を養成するか、さてこそ口サガない人々は島田の門弟を指して、
「馬賊の三下が通るぜ」
なぞと云う者もあるほどだった。時の怪物と目されて、世人のウケは一般によろしくなかった。
けれども十五名の門弟の数名に近づきを持った人なら、決して島田を悪しざまに言う筈はなかったのである。門弟に共通していることは、彼らが一様にいわゆる豪傑風の武骨者ではないことだ。むしろ豪傑の蛮風から見れば文弱と称してよろしいほど、礼節正しく、常識そなわり、円満温厚な青少年のみ集めていた。したがって彼らの体格は一見弱々しい者が主であった。そして何年たっても武芸者然とはならなかったが、特別な心得の人が見れば、彼らがすでに相当の手練を会得しつつあることが了解し得たであろう。けれどもその特別の心得な
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