ツンボで、オシで正真正銘マチガイなしの出来損いだ。そのほかに金三とかいうツンボでオシの下男がいて、島田じゃア、ツンボでなきゃア下女下男に入れない家法だ。もっともお吉という女アンマが出入りしているが、これはメクラだとよ。今度の普請もツンボの大工に限るそうだが、幸いなことに、貴公が無口で横柄だから、近所の者もあいつツンボじゃないかなどと言う者がいるのは都合がよい」
ベク助が無口なのは熊に片アゴかみとられてから舌がもつれてフイゴの吹いているような風の音がまじるのも喋りたくない理由であった。
「そこで貴公に頼みというのは、縁の下から抜け道をつけてもらいたい。ここに手附けが三百両。見事仕上がったら、耳をそろえて七百両進上しようじゃないか」
ベク助は特に逃げ隠れているわけではないが、隣り近所のツキアイというものを全くやっていない。
そこで島田道場という奇怪な存在についても知識は乏しかったが、五忘の話の内容だけでも一方ならぬ曲者であることは明らかであろう。ツンボとメクラのほかには出入りを許さぬというから、人に知られては困る秘密があるに相違なかろう。
五忘のタクラミは分らないが、ニセツンボで普
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