血の海で、台所に一滴の血がないのを見ると、この中で殺されたとしか思われない。
さすがの島田幾之進も茫然として考えることもまとまらない。ようやく放心を押し鎮めて、三次郎に向い、
「どうも、解しがたいことが起ったものだ。二人の坊主が、どこをどうして、この中で殺されているのか判じ難いが、婚礼のドサクサを見こんで泥棒に来たもののようだ。それ、二人ながら、麻の丈夫な袋を腰にブラ下げでいる。だが、この殺しッぷりは、まア、お前ではなさそうだが、わざとヘタに刺す手もある。とにかく殺したものがウチの誰からしいのは確かなようだ。信じ難いが、信ぜざるを得まいて」
三次郎も大きな福助頭をうなずかせて、
「どうも仕方がありません。みんな酔い痴れていたようだから、誰かが夢中でやったのでしょうか。実に困ったことだ」
警察へ届けでる。さア、怪物の邸内で奇怪な殺人が行われたから、噂は忽ち街を走る。御近所の海舟の耳には一時間もたたないうちに耳にとどいた。
「新十郎に知らせるがいいぜ」
と、海舟はちょッと考えて、侍女に云った。
「取り調べのあとで、御足労だが立寄って下されたいと鄭重に頼みなよ」
そこで新十即は花廼
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