くそうだ。シナの利権は奴の顔を通さないと、どうにもならないということだぜ」
「するてえと、山本てえ人は日本の役に立ってるのか、シナの役に立ってるのか、どっちの役に立つ人なんでしょうねえ」
「それはお前、どっちの役にも立たねえや。自分の役に立つだけだアな。しかし、まア、どっちかと云えば、シナの威光をかりて日本を食い者にしている奴だ」
「ふてえ奴ですねえ。ところで、つかないことを訊きますが、島田幾之進てえ武芸者は、シナにツナガリのある仁ですかい」
「ちかごろ名題の曲者だなア。オレがシナにいたころは、そんな名を一度もきいたことがないな。だがな。アチラの馬賊の頭目や海賊の頭目に日本人が一人二人いるらしいが、誰も日本名を名乗っちゃいねえよ。みんなアチラの名がついてらア」
「平戸久作てえのは?」
「それは棉花を買いつけて、ちょッとばかしもうけた商人だ。大坪彦次郎てえのが相棒で、モウケたと云ってもそれほどの成金ではないが、こういうカセギをするにも、それ、山本定信の手を通し、進物を呈上しなくちゃア事が成らないてえワケだ。山本定信に見放されると、あとのカセギはできないぜ」
「なるほどねえ」
これで大体
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