乗りこみながら、敵に見破られるばかりで、一向に確かなことが分らない。実にどうも面白くない有様である。
 しかし、ここまで踏みこんだからにゃア、今にみんな正体を見ぬいてみせる。蛸入もガマもおどろくな。
 とにかく話がみんなシナにつながっていやがるらしいから、そッちの方からタグリだしたらどうにかなろうというものだ。
 ベク助はこう考えて計画をねった。

          ★

 ベク助は翌日の仕事を早目に切りあげて、横浜本牧のチャブ屋へでかけた。そこのオヤジはシナ浪人のバクチ好きで、先に七宝寺の本堂へ時々バクチにきたことがある。横浜に通じているベク助、然るべき筋で手ミヤゲの阿片を買いもとめたが、これは訪ねるチャブ屋の亭主が阿片中毒だからである。
 何よりの手ミヤゲ。その利き目は恐しい。亭主は秘密の別室へベク助をつれこんで、自分は阿片を一服しながら、
「そうかい。山本定信のことかい。あいつがつまり、これじゃアないか。この、阿片だよ。奴の北京居館は五十何室阿片でギッシリつまっていると云われているな。高位高官へタダの阿片を無限につぎこむ代りには、シナのことじゃアシナの公使よりも日本にニラミがき
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