があって来たのだろう? ゾロリとした着流しだが、足にワラジをはいている。着流しにワラジというのは散歩にも変だし、旅姿にも変だなア。懐中物が何一ツ見当らないじゃないか」
菅谷巡査は考えこんだ。考えこむのはムリがない。こんなところで死んでるのは、この男の柄に似合わぬことで、解せない節が多い。この男の猪クビは有名だが、タアイもなくネジ切られて、バラバラのうちで首が一番遠く十間の余もとんでいる。ガマ六のヤブニラミといえば泣く子もだまるほどニラミのきいたものだが、その目玉の片方はとびだしてホッペタにぶら下っているし、片目はなくなっている。
「頭を強く打つと目玉がとびでるというが、たしかにこの頭は強く叩きつけられて骨が砕けている。すると世間で言う通り、ぶたれると目玉は飛びだすのかなア。まてよ。さては片目はイレ目だな。しかし、イレ目がヤブニラミは変だが、そこがヤクザのことだから、ニラミをきかせるツモリかなア」
いろいろ解せないことがある。けれども田舎の駐在巡査が何を考えたって、どうにもならない。国府津や小田原から上級の警官や縁者がかけつけると、菅谷巡査の存在は全然なくなり、彼に一言の相談もなけれ
前へ
次へ
全58ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング