ば、当局の判断や結論を知らせることもなく、屍体とともに引きあげてしまった。
 十日もすぎてから小田原へでたついでに訊いてみると、ガマ六は酔っ払って汽車にひかれたのだそうだ。下曾我を歩いていたのはナゼだろうと訊ねると、ガマ六は前日旅にでたという。というのは、ちかごろ箱根がひらけてきたので、ガマ六は箱根の諸方に三ツも旅館をひらいた。それが遊女屋とも旅館ともつかないアイマイ宿で、そのために女が必要である。川柳にサガミ女というようにサガミの奥地には女中奉公に適した女がいるという俗説があるから、ガマ六はちかごろ女中さがしの旅にでることが多く、それは今の小田急沿線に沿うて左右の山地にわけいるようなジグザグコースをなんとなくブラブラさがしていたらしいから、下曾我を通るのはフシギではないという話であった。
 だが、日が暮れてから、あんな道でもないところをチョウチンなしで歩くとは変だ。
「どこで酒をのんだんですか」
 ときくと、ナニ、酔ってるから汽車にハネとばされたんだ。どこで飲もうと、酔うのは同じことだ、という荒ッポイ返事で、おまけに、どうもキサマは理窟ッポイぞ、と叱言《こごと》をくった。
 菅谷巡査
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