だすなんて、ウソだ。それに、ガマ六の旦那とは二年前に手を切ってらア。花房の旦那にガマ六と手をきるようにたのまれたからですよ。私はあの日も花房の湯の札を裏がえしにして花房の旦那に合図しただけだから、どうしてガマ六の旦那の方が来たのか話が分らねえ。あとで花房の旦那にきいたが、ガマ六の旦那は札を裏がえしの合図を見破って、花房の旦那の起きないうちに札を見にきて、裏がえしの札を元にかえして、自分が身代りに来たんでさア。それを見破ったから、早起きして札をしらべるようにしたが、又、やられたのだそうだ。オレのせえじゃアねえや」
「それから、どうした」
「オレは知らねえや。そのときオタツが谷へ遊びにきていて、二人で一しょに帰っただけだ」
「二人はなぜ一しょに帰ったのか」
「花房の旦那でなくてガマ六が来たからオレは新しい女の話を教えてやらなかったのだ。旦那はあきらめてオタツが帰るとき一しょに帰ったのだ。オレは何も知らねえや。その後で、花房の旦那が牛に殺された時だって、オレは知らねえや。あの日、旦那がくるのは知ってたよ。目印しの札を裏がえしにしてきたからね。旦那があの日くるのは分ってたから谷へきて待ってたん
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