もっとかかりますが」
新十郎はうなずいた。彼らが次に行ったのはクサレ目の新しい小屋だった。クサレ目は炭にやく材木を小屋の前で切りそろえていた。
「お前は早いとこ古い小屋をこわしたなア。何か珍しい物が出なかったかい?」
新十郎は声をかけた。ナガレ目は知らない人に声をかけられてビックリしたらしいが、黙っていた。新十郎はズカズカ歩みよって、きびしい態度、きびしい声。
「お前を警察へ連れて行かねばならぬ。オタツがみんな白状したぞ。お前はガマ六と雨坊主をおびきよせて、金を奪って殺したな。お前が二人をおびきよせるために深夜小田原へ行って花房の湯の終業の札を裏がえしにして合図しておいたのも分っている。もうジタバタしても逃げられない」
新十郎はナガレ目の腕をつかんで、逆をとって、ねじあげた。ナガレ目はマッ蒼になって、怖しげに目をとじた。これを観念の目をとじると云うのであろう。バカバカしい大きな溜息を一ツもらして、必死に云った。
「オレが花房の湯のフダを裏がえしにするのは三年も前から花房の旦那と相談の上のことですよ。それはあの人にたのまれた女の子のことで、新しい話がある、という報らせでさア。おびき
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