たのは、それから三月四月もたってからでしょう。死ぬ二月前ぐらいからです」
新十郎は厚く礼をのべて去ったが、再びガマ六夫人を訪れて、
「失礼ですが、御主人がよその銭湯へ行かれるようになったのは、御逝去の一月か一月半ぐらい前からではないでしょうか。ちょッと大切なところですから、よく思いだしていただきたいのですが」
「そうかも知れませんねえ。私にはハッキリ分りませんよ」
「で、それから何か他の習慣にも変りがありませんでしたか」
「そうですねえ。花房の湯は色街のくせに開店がおそい。それを怒ってましてね。朝がえりのお客の間に合わないでしょう。主人も目を覚すのが早くなって、花房のひらかぬ時刻に、店のお客の朝がえりと一しょぐらいによその朝湯へ行くようになりましたよ。六時ごろでしょうねえ。五時半か六時半ごろ」
「朝湯のあとで一眠りなさらなかったでしょうか」
「よく御存じですね。朝酒をのんで、ヒルすぎまでグッスリ一ねむりでしたよ」
「どうも、ありがとう」
新十郎はそこをでるとニコニコして、
「どうやら結び目が分りましたよ」
彼は小田原の警察署で署長と密談していたが、たっぷり二時間もたってから、よう
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