と打ち合わせていた様子はありませんか」
「別にそんなこともございません。フイに思い立ったように旅にでる習慣でした」
「御主人の毎日のきまった習慣はどんなことでしたか。朝起きて、顔を洗って、それから」
「夜がおそい人ですから、起きるのはヒル近いころですが、目をさますと花房さんへ朝湯につかりに参ります。ちょうど目をさますころ、十一時ごろが、あの銭湯の開店時刻なんです。ですが最近は遠い銭湯へ行ってましたネ」
「それはいつごろからでしょうか」
「そうですねえ。そうそう。お隣りの質屋の息子が窓から女湯をのぞくとかで高い塀をたてたでしょう。主人はヒドいことをしやがる、とブリブリ怒ってましたが、そのころから行かなくなったようです」
「それは珍しい話ですね。質屋の息子とこちらの御主人は仲がよかったんですね」
「以前はいくらか、何か、あったようですが、近ごろは訪ねて来なくなりましたね」
風呂から戻って飯を食うと、箱根の店を三軒見廻りにでて、それからよそへ廻ったりして、おそく帰ってくる。それだけの生活だという返事であった。
新十郎は花房の湯でも同じことを内儀にきいた。この内儀は良人《おっと》の死因に疑
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