、オタツは美人にきまっている。世界中に一番助平なのは、遊女屋の客ではなくてそこの亭主だとさ。奴らが女をさがしにでるのはお客のためではなくて自分のためだ。どこかに今まで見たこともないような珍しい女がおらぬかと考えている。タダの女にあいてるのだな。そのような色ガキにオタツのような女はふるいつきたいような魅力だ。そこで言いよる。オタツも色を好む女だから、炭焼小屋で身をまかせたが、大金を所持しているのを知って男どもをヒネリ殺してしまった。オタツは小男を可愛がるが、大きな男や偉ぶった男はひねりつぶしたがる女だそうだ。虎もひねりつぶされないように気をつけろ。オタツは大そう美人だぜ、だとさ。アッハッハ。海舟先生も衰えたなア。年寄が諸事助平と見たがるのは、危い年頃だぜ。これを後世、老年期、あるいは老いらくの危機と云うなア。お前なんぞは若いうちから、危機つづきだなア」
虎之介は海舟先生のミタテ違いに腹をたてて、花廼屋にまで毒づいている。
国府津から人力車を急がせて小田原へ。ガマ六の家へ行ってタバコの道具を示して彼がこのたび持って出たものに相違ないのをたしかめたが、
「旅にでる前に、誰か人がきて御主人
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