って、そんなことはとてもできません」
「むろん、できませんとも。しかし、この事件はそんな風に行われたものではないのです。とにかく、下曾我へ行って、結び目をさがしましょう。それが分れば別に複雑な事件ではないのです。明朝一番で出発いたすと致しましょう」
★
明朝の一番では海舟邸の朝詣りが間に合わないから、虎之介が慌てて海舟邸へかけつけたのは夕食前だ。その時間が訪問に不都合だなどと云っていられぬ。
しかし、それから二時間後、クラヤミの氷川町へ現れた虎之介はガッカリしたように首をふりふり、感無量であった。
「先生がモウロクされたとは思われぬが、年のせいか、どうも夕食すぎはにぶっておられる。キリンも老ゆれば虎に及ばずか」
虎之介はシャレにならないことを呟きながら、ブリブリしている。
翌朝顔がそろって、一番列車にのりこむ。花廼屋が虎之介をからかって、
「どうだ。氷川詣での御神託は?」
「夕食後はいかんわい。ボケておられる。オタツの怪力は分ったが、美人であろう、どうだと仰有る。知りませんナ。美人らしくもないようですな、と答えると、そこを知らずにタンテイができると思うか
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