いでいたから、オタツは近くまで来たかも知れないが、姿を見せずに逃げ戻ってしまったろう。
ナガレ目はオタツのことはみんな喋ったが、雨坊主やガマ六のことは菅谷にも知らぬ存ぜぬで押し通し、ゼゲンでもうけていたことは決して口外しなかった。
ガマ六や雨坊主を誰かがどこかで見かけたか、これはアイマイで、誰の云うことも当にならなかったが、その谷へ行く道筋にあって谷へ行くには必ず通らねばならぬ部落で、谷の方へ行った人の姿を見た者は誰もない。菅谷はガッカリして戻ったが、途中甚しくノドがかわいたので山かげの小さな寺に立ちよってお茶をご馳走になった。すると坊さんは菅谷の探し物の話をきいて、
「そうですか。その着流しの人物かどうかは分らないが、この寺の裏から丹沢山の方へわけこんだ人が、まれにあったようだ」
「この裏からも谷へでる道がありますか」
「イヤイヤ。そんな道はありません。ですから、私はウチへくる用の人かと思ったが、そうではなく寺の裏手へ登ってしまう。村の人もそうとは知らないから、今日はお客さんのようですね、どなたか見えたようだが、などと私に云う。みんなこの寺へくる人と思うらしい」
菅谷はハッとし
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