上げして、ひどい目にあわしてやる」
 と、オタツはニヤニヤしながら菅谷に云った。
「一円が精イッパイだと思ったら、クサレ目は金持だよ。何万円も持ってるのだよ」
 オタツは益々ニヤニヤしたが、
「谷の木を伐っているのは秘密ではなくなったし、二度と伐る筈もあるまい。伐らせていた旦那も死んだのだからな」
 と菅谷に云われて、オタツは目をまるくして考えこんだ。再び口止め料がまきあげられないことに気がついたらしい。
 菅谷はナガレ目を訪ねて、
「オタツに一円ずづ何回まきあげられたか」
 ときいてみると、山にこもっている時は三日にあげずきていたし、そうでない時も十日か廿日目にブラリときて、一円ずつせしめて行ったそうだ。ちょうど事件の時はイモほりなぞの季節で、オタツは山小屋にこもっていたから、ナガレ目はさかんにセシメられている時だった。
「雨坊主の死んだ日、オタツがせしめにきたか」
 その日はこなかったそうである。オタツのくるのは、いつもヒルごろだ。大食のオタツはいくら食っても食い足りないらしく、ナガレ目の食物を荒して何かとまきあげて食うのがタノシミらしかったそうだ。あの日のヒルごろは人々が現場で騒
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