かせた。
 ナガレ目は人のねしずまる深夜に往復していた。ところがオタツは道のない山や谷をわたって昼でも人に知られず谷へ行くことができると云った。ナガレ目も同じことができるのだが、彼は牛をひいているから、なるべく深夜に平易な道をとったのである。
 オタツが谷へ通うのは山の畑に山ごもりしているとき、そこから山づたいに誰にも知られず谷へ通うことができるのだ。
 オタツは偶然ナガレ目のアルバイトを突きとめて、時々材木を運んでやるから運賃をよこせというのを口実にして、口止め料をかせいでいた。一回一円であるが、ナガレ目は炭の運送料から算定して一銭でタクサンだと云ったが、オタツは腕ップシが強大だし、意地ッぱりだし、秘密を握ってもいるから、時々一円まきあげにきた。その代り、大の男でも一人で担げない材木を三本ぐらいまとめて運んだ。それは親切のせいではなくて、そうしても苦にならないから、やってるだけのことであった。このことは二人だけの秘密であるから、二人が敵味方にわれて大論争になっても、二人とも警察で一言もこれにふれなかった。オタツも自分がたかっているのを言うわけにいかなかったのだ。
「一円は安いから、値
前へ 次へ
全58ページ中40ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング