とめると限界が分ってきて、誰が犯人でありうるか、というヒントの一ツになります」
新十郎の顔はひきしまった。
「そっちへ歩き去った他の人物の有る無しを探る場合に、たとえば質屋の倅というような特殊な一人を想定してはいけません。いつも白紙で、とりかかることです。小田原の人ばかりでなく、他の土地の人も、同じ村の人も、とにかく誰であってもかまいません。犯人は誰でもありうるのです。その犯人が見つかるまでは、全部の人が容疑者であるし、もしくは誰も容疑者ではないのです。今、申し上げた二ツのことを探してから、また、いらッしゃい」
菅谷は心からの尊敬を新十郎にいだいた。そして、食事を一緒にとひきとめられたが、それどころではなく、事件の解決にはげしい情熱と希望を得て、いそいそと下曾我村へと帰途についた。
ナガレ目とオタツは許されて村へ帰っていたから、二人を訪問して、さりげなく訊いてみると、二人は菅谷とは親しくなっていて警官という特別な考えは元々少いところへ、留置場でいかつい刑事に接して、ふだん親しい菅谷に対しては半ば軽蔑と、それだけ親しみも増すようになっている。そこで谷へ通う方法を警戒もせずに語ってき
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