なかったでしょう。しからばこの二人はすでに何かを利用して魔法の代りに身を消す方法を用いていたに相違ないのです。二人の方法を突きとめると、第三人目四人目の人間の用いた方法のヒントをうることができるかも知れません」
 実に平凡なことではあったが、急所であった。菅谷は愕然として、名探偵の顔をみた。その顔は親しげな笑みをたたえて彼をやさしく見つめているが、菅谷はその親しみをこめた笑みや眼差しをうけるに値しない身の拙さを省みて、赤らんでしまった。
「次に重大なことは、ナガレ目とオタツが谷へ行くことは秘密のアルバイトですから姿を消して行く必要はありますが、殺された人たちは姿を消して行く必要があるでしょうか。あるとすれば、それは何か。また、ナガレ目とオタツと被害者のほかの誰かがその谷で彼らがアルバイトをやってることを知っていたか、どうか。たとえばガマ六や雨坊主などが、小田原から下曾我方面へ向ってどこまで人に姿を見せているか、それを突きとめてゆくと、彼らがどこから姿を消したか分ってくるでしょう。次の知るべきことは、それと同じところまで姿を見せて同じ方向に歩き去った他の人物があったか、どうか。これを突き
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