人に所持品がなく、そこは人の通るところでもないから、自殺や過失でなくて他殺であるということ。また牛に突き殺された人が逃げたらしいところがなく、広さの中央で後向きに突き殺されているし、所持品もないから他殺であるということ。多分、お考えの通り他殺でしょう。また日がくれてから四十分しかなかったから、犯人はその時間中に仕事をしたに相違ないこと、これも正しい判断です。つまり、人間は魔法使いのように決して空をとんだり姿を消したりして仕事をすることはできません。ただ何かを利用すれば姿を消したり空をとぶ魔法と同じことがやれる。夜の暗闇を利用するのがその一ツなのですよ。ところが雨坊主の方は暗夜にはとても辿りつけないような山中の径《みち》もない谷底で死んでいる。夜を利用して行けないとすれば、どういうことになるでしょうか。誰か彼が谷の方向へ歩いている姿を見た人があったか、誰にも見られていないとすれば、何を利用して姿を消して歩くことができるか。ここに、それに関聯して考える必要のあることは、ナガレ目は一年前からその谷へ通っていたらしいし、オタツも時にそこへ現れていたらしいが、彼らがそこへ通う姿は誰にも見られてい
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