平和であった。もっとも一週のうち一度や二度は突きとばされたり殴られたりしてカモ七がノビたり、顔を腫らしたり、骨を折ったりしたが、カモ七の骨は粘り気が強いらしく、じき治ってしまう。山腹の畑の方にも小屋をつくって、忙しくなるとオタツは山小屋にこもったが、留守番のカモ七は朝と夕方山へ食べ物を運ぶついでに、トリイレのムギやイモをいくらか運び下す程度で、日中と夜間は何もしない留守番だった。その期間山と下で別々にくらす二人が人に分らぬ秘密の生活をしていたにしても、山小屋は遠く離れていて、ただ歩くだけでも現場から四十分以上はタップリかかるし、ウスノロで非力のカモ七に気のきいた犯罪はできそうにもない。
 菅谷はどうしても何か秘密があるし、誰かが殺したに相違ないと思ったが、本署の方では一方は酔っての過失死であるし、他方は牛が犯人だときめて動く様子がないし、いくら考えても自分の力では謎が解けそうもない。そこで上京のツイデに思いきって結城新十郎を訪ね、今までのことをみんな語って判断をもとめた。

          ★

 新十郎はきき終って、
「あなたは一番大事なことをよく見ていらッしゃる。汽車にひかれた
前へ 次へ
全58ページ中36ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング