そうだ。
ところで、ここに重大な問題が現れた。雨坊主もガマ六と同じようにゾロリとした着流しにワラジをはいていた。ところが雨坊主はワラジをはく習慣がない。彼はいつも草履をはいて道中した。
雨坊主はタビをはいた草履をつッかけて着流しで出かけた。ところが屍体は、素足にワラジをはいており、ワラジはかなりの道ノリをはいて歩いたようにスリ切れていたが、素足の表面にくッついた泥を払うと殆ど素足は全く汚れていなかったし、はじめて素足でワラジをはいたならマメやスレたあとがありそうなものだが、それが一ツもなかったのである。納棺のとき、それに立ち会った者が気がついて、皆々首をひねったが、結論がでないので、警察にも報告しなかったのだと云う。
「この高い塀は質屋の倅が二階からのぞくので造ったそうですが」
「ええ、こう申しては何ですが、お隣りの坊ちゃんぐらい色好みの殿方も世間にたんとありますまい。こう身をのりだして三時間でも五時間でもヨソ見一ツなさらずに眺め入るんですから、恐れ入ります。こんな塀は造りたくないのですが、あの調子で眺め入られては大事のお客様が来て下さいません」
「それで当家と恨みが結ばれたという
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