ようなことがありましたか」
「人様の噂では、恥をかかせた、仕返しをしてやる、そんなことを言っていたとかききましたが、直接当方へそんなことを言ってきたことはございません」
菅谷が質問につまっていると、内儀は改まって、
「納棺のとき皆さまがフシギだと仰有ってましたことは、正面から角で突きふせられているのに、うつむいて地面に押しつけられたように口に土をかんでおりまして、鼻の孔の中にもいくらか土がついておりましたことです。これは、どうもワケがわからない。どんな風に牛に突き殺されたのか、まるで謎のようだ、と皆さまがフシギがっていらしたのです」
菅谷はうなずいて、
「それは本官もフシギに思っておりました。御主人はあまり御壮健とも思われませんが、時に挙止に自由を欠くような持病でもお持ちでしたか」
「特別壮健ではございませんが、若いころは船乗りで、相当に身体のシンはできた方で、特に持病もございませんし、オメオメ牛に突き殺されるほどモロイ人だとも思われませんが、あいにく防ぎにくい場所で間が悪かったのかなどと皆さまがそれもフシギの一ツに算えておりましたようです」
そこは牛の姿を隠す特別の場所だから、
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