イですよ。シッカリ握っでるツモリだったのにマチガイで手からすべって落ちたんです。クサレ目がちょうど下を通ったから運がわるい。マチガイは仕方がありません」
「バカ云え。ワザワザ往来の上の松の木や、他人の屋根へ登っていて、マチガイということがあるか。そんなところに登っているのは誰かを待ちぶせている証拠だ。マチガイというのはいつも自然に起ることと人のたまたま通りかかったのが重なったときを云うものだ。お前のような理不尽なことをしたり云ったりすると、今度から牢屋へブチこんでしまうぞ」
 オタツは散々油をしぼられた。オタツはその後イヤガラセをしなくなったが、足の怪我が治ったカモ七が執念深い。クサレ目が炭焼に山へ行くと、身をかわしようもない細い崖を大石がころがり上からマッシグラに落ちてきたり、頭上の密林から石が落ちたり、生きた心持もない。一度は崖を這うツルにすがりついて一歩あやまれば谷へ落ちる危いツナ渡りをして一命を拾ったこともあった。そこで、また駐在所へ泣きついたがへ菅谷もその執念深さた呆れ果てたとはいえ、考えて見れば自分のやり方もまずかった。オタツの剣幕がひどいので一方的にオタツを叱ったが、元来
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