、ナガレ目はオタツの怪力にひねられてはイノチにかかわるから駐在所へ逃げこんだ。菅谷は話をきいてオタツの剣幕のひどすぎるのに閉口したから、
「ナガレ目がわざと肥桶を落したのではなくて、まちがって落したのだ。誰にもマチガイはあることで、ナガレ目も二度とマチガイはやるまいからカンベンしてやりなさい」
「いいえ。クサレ目の奴はカモ七を殺すツモリでわざと落したのにきまっています。ちょうどカモ七が通るときマチガイで肥桶が落ちるなんてことがあるもんですか」
「イヤ、イヤ。マチガイはいつ起るか分らんものだ。ちょうどそのとき通り合せた者が不運なのだから、そのときはマチガイで仕方がないとあきらめて、我慢してやらねばならん」
オタツはプンプン怒って帰ったが、それからはナガレ目が道を歩いていると、松の木の上からタクアンの重石《おもし》のような石が落ちてきたり、自宅の前へきてヤレヤレと思うと屋根の上から大きな石がころがり落ちたりする。松の木やナガレ目の屋根の上にオタツが石をかかえ待ち伏せているのだ。ナガレ目はとても危くていつ死ねか分らないから菅谷にたのんでオタツを叱ってもらった。オタツは涼しい顔で、
「マチガ
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