伐ったぐらいじゃ一ヶ月も泊められやせんから、心配するな」
「クサレ目の生きてるうちは、オレはオチオチ安心ができませんや」
「なぜだ」
「まアね」
カモ七はアイマイに言葉をにごした。その様子はさッきの雄弁とは変って、きびしい何かがあるようだ。彼の真実の苦しみが、ふと感じられたのである。この植物にも人間の悩みがあるのかなア、と菅谷は感無量であった。そう云えば、カモ七にもなかなかシンの強い強情なところがある。思いつめると何をやるか知れないようなところがあった。そして菅谷はふと思いだした。
カモ七とクサレ目がうるさい争論をやって駐在所へ持ちこんできたのはそう遠いことではない。二ヶ月ぐらい前のことだ。
カモ七が野良から自分のウチへ帰るにはナガレ目のウチの崖下を通らなければならない。夕方カモ七がそこを通りかかると、上から肥《こえ》オケが落ちてきた。幸い下敷きにならずに、目の前をかすめて足もとへ落ち、下半身はコエをあびるし、はねかえった桶にヒザ小僧を一撃されて関節がどうかしたのか数日は発熱して歩行ができないほどであった。
カモ七から話をきいてオタツは怒ってナガレ目のウチへかけあいに行ったから
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