られる。常識的にはそう考えられるが、そう目安《メヤス》が彼に当てはまるかどうかも疑問であった。
オタツとナガレ目がはげしい論争をくりかえして、論争の結果は必ずしもオタツに有利でないことをきいて、オタツの亭主のカモ七が菅谷巡査につれられて警察へ陳情にきた。カモ七を見ると探偵たちは異様の感にうたれた。カモ七の目は流れていなかったが、顔全体が流れているようなものだった。どこにもシマリがない。何かが留守でなければ、こんな顔にはならないだろう。ところが一ツだけ目ざましく雄大で生気があるのは二ツの耳であった。カモ七の頭の中央がピョコンと尖っていなければ、頭と耳の高さが同じぐらいであろう。その幅もカシワモチが包めるぐらい広かったが、しかしウスッペラではなくて人目にふれずに見事に天寿を全うしたキノコのように肉ヅキがふくよかであった。この耳を育てるためにうまれてきたように見え、彼の全体が鉢植えのキノコ、たしかに植物のように見えた。
カモ七は一同にオジギすることを忘れていた。彼が警察へきたとき、ちょうどオタツとナガレ目の第何回目かの対決中であったから、彼はのぼせて、道々言い含められたことを忘れたのかも
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