赤になり、ムクムクとふくらみ、眉がつりあがって、目玉が石になって、鼻の孔がにわかに二ツの奥の知れない大きなトンネルができたように思われた。米を炊く泡がみるみる盛りあがるように肩が天井にふくれそびえたが、そのとき大きな鷲が二ツの翼をユーレイの両手のように前の方へそろえてワッとひろげた。そう見えたのは着物の下のことではあるが二ツのお乳が髪の毛を束ねて逆立てたようにフワッとふくれて逆立ったのだそうだね。そのときは署長も探偵も呼吸がつまっで死ぬところだったという。しかし、この時はまだ穏かな方であった。ナガレ目はヌラリクラリとラチがあかないが、オタツは断々乎として無実を主張してゆずらないから、二人を会わせた。このときこそは大変であった。
 オタツの全身が無限にふくれて、とどまるところがないように見えたが、その一瞬にナメクジよりもノロマなナガレ目が電流の如くに術を使ったという。人々の目は(彼らはタンテイである)如実に認めることができなかったが、オタツのフクラミがとまらぬうちにナガレ目の姿は署長の後に隠れていたのだそうだ。彼は署長の両肩に手をかけてそッと首をだして、
「オレは何も言わないよ」
 オタ
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